自然に開かれた学校 ~身体感覚を育む場として~(論文)

金谷 聡史
2006
学科
環境・建築デザイン学科
受賞区分
学科賞
備考

1.研究の背景と目的
人の成長過程において青少年期は身体感覚や自己を形成する重要な時期である。そのため学校は身体性を育むことのできる場として、五感で感じられる自然と関わることが重要であると考えている。今日の学校建築の多くは効率性や教育機能を重視する傾向にあり、画一的で均質な空間を多く生み出した結果自然とのレスポンシブな関係を失ってきている。学校教育を行う上で教育の機能性を高めることは重要なことであるが、根本的な身体性を育む場としての学校のあり方を見直す必要があるのではないかと感じている。自然を五感で感じられることを明確なコンセプトとした学校の事例は少ないが、本研究はその事例を通してどのように自然と関わっているのかを調べ自然に開かれた学校の可能性を明らかにする。

2.研究の方法
自然を五感で感じられることをコンセプトとした多治見中学校を調査対象とし、そこの主に温熱環境と風環境特性がどのように計画され、アクティビティとどう関係しているかを分析する。そこで以下の方 法で研究を進めていった。
(1) 基礎研究
(2) 校舎の設計意図と空間の把握 ・設計者へのヒアリング
(3) 校舎内の温熱・風環境の把握 ・気温、風向き、風速
(4) 生徒の行為・居場所の選択性の把握(15エリア) ・観察調査 ・アンケート調査(120名)
(5) アクティビティとの関係性の分析・考察

図a.b-dエリア21日の行為の分布
図b.環境特性とアクティビティの分析の一例
図c.風を建築内に取り込む空間構成

3.結果・考察
◎ 多治見中学校校舎の温熱・風環境特性 この校舎は温熱・風環境や日射の要素によって場所ごと に異なった環境特性を作り出している。また時間の経過とともにその特性は変化し、気象条件が変わるとその環境特性の様相は大きく変わり、全く違う環境特性の分布となる。このことから、この校舎は気象要素が生徒たちの活動空間に大きく影響を与える建築空間であることを示している。
◎温熱・風環境特性とアクティビティとの関係性生徒たちはこれらの環境特性やその違いを身体で感じ取り、居場所の選択性や行為に大きく関係し、行為や分布に傾向が生まれる。また気象条件が変わることによって環境特性が変われば、アクティビティや居場所の選択性も変化する。さらに“温熱環境や風環境”によって分布や行為に傾向が出ると、“人が多い―少ない―いない”によっても場所に特性が生じ、それが集団でない少数の行為(独りや数人で行う行為)や居場所の選択性に影響を与えている。
◎環境制御のための空間構成とアクティビティ
盆地である多治見地方の夏期において風は弱く風向も不安定である。そういった風を建築内に取り込む計画として、“中庭”と“風の通り道”という空間構成が有効に機能している。そういった空間は適度な位置にオープンスペースや居場所、地域住民との交流の場を配していることにもなっている。既往研究においても同様なことが見られた。つまり建築的な工夫による環境制御として有効な空間や空間構成(形態)が、より快適な温熱環境・風環境を作り出すうえで有効であるとともに、個と個とのつながりをつくるようなアクティビティの場を、また個としての居場所つくりだしている。

4.まとめ
◎自然に開かれた学校
これらの考察は、計画の根拠を自然とレスポンシブに関わること重点としてつくりだされた学校においてより顕著に見られる。設計者は「身体性を伴った経験や記憶の蓄積によってある種の情緒的な安定や豊かさを得てもらいたい。」と述べていた。自然とレスポンシブな関係をもつ建築は、空間に多様で変化のある空間の質やシーン・関わりあいをもたらす。そしてそれらは身体性を伴った経験や思い出として蓄積されている。設計者の意図はこういった意味で実現されている。
今回の研究ではアクティビティを観察することでどのように自然との関わり合いを持っているのかを明らかにした。しかしここでは自然と関わることが身体や自己形成においてどのような影響があるのかといったことについて言及していない。自然との関わりが希薄な現代の建築が失ってきたことは多々あるはずである。おそらく“身体性を伴った多様な経験の蓄積”がキーワードとなってくるだろう。それらを踏まえて学校建築の計画に反映させる必要がある。

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